PM(プロジェクトマネジメント)
良質な建築プロジェクトを目指して
インターフェースとしてのプロジェクトマネジャーの存在意義
 20世紀は幕を閉じ、すでに時代は21世紀に入った。人間を外部環境から守り、そこに活動の場を創造する建築は古代より存在し、人類が存在する限り、将来も生産されるものである。

 建築は人間によって作られるものである。そこには歴史(時間)と新たな生産、機能性と文化的側面といったある意味相反するテーマが常にある。今日の資本主義社会においては建築生産は経済行為であり、目的とする建築物の建設のために資金が必要となる。また投資金額を回収するだけの経済効果がなくてはならない。建築プロジェクトは事業主、運営管理者、資金融資者、設計者、建設会社など多くの関係者から成り立っている。これらの関係者の利益意識が一致したときにプロジェクトは成立する。この利益意識の総意を生むことこそプロジェクトマネジャー(以下PMr)のミッションである。

 プロジェクトの参加者はプロジェクトごとに異なり、その利害関係も一様ではない。PMrはプロジェクトごとにその背景を理解、分析し、最も適した提案、調整を行わなくてはならない。そのためにはプロフェッションとしての意識とスキルが必要である。
 意識とは、常に依頼者の利益を考え、それを最大限引き出す努力である。単に依頼者の意見に同調するだけでなく、経験、知識に基づく提案を行えなくてはならない。その際、提案がいかにメリットがあるかについて相手に理解してもらうための説明努力が重要である。また関係者間では利害関係が異なる部分がある。相手の立場をよく理解した上で相手にとってメリットのある説明を行わなくてはならない。
 このようなサービス精神に基づく調整力と共にリーダーシップが重要である。時代の変化する今日、予定調和の上でプロジェクトは進行しない。時代の変化に敏感に情報を収集し、一歩先を行く立場で関係者をリードできなくてはならない。そのためにも幅広い分野に対して最新の知識を持つことが必要である。同時に将来予測など、マクロ的視野に立った判断も大切である。また専門分化の進んでいる今日、自分のもつ知識だけに頼らず、他分野の専門家とのコラボレーションも大切である。

 このようなPMrとしての素養を身につけて、今後いかにプロフェッションとしての自立を行えるか。これこそが今後のPMrの存在において重要である。
 自立とは、実業=フィービジネスを意味する。単に設計業務遂行上での関係者の調整以上の積極的な行動が必要であり、利益行為にしていかなくてはならない。そのためには川上での活動が重要となる。
 オフバランスの進む今日、自社保有資産の土地建物は流動化する傾向にある。オーナーとの個人的信頼関係による自社ビル建設などの新築計画も難しい時代である。また土地神話の崩壊により土地の低価格化が進む中、土地担保の融資額も減り、相対的に事業費全体の中での建築費の割合は大きくなることから、事業実現のハードルは高くなる一方である。
 不動産の流動化は金融商品と同じ土俵での投資対象となりつつある。そのためには海外の投資家にとってもメリットを感じさせられる高収益性が求められる。最近では、正味現在価値法(NPV)や内部収益法(IRR)を用いた将来予測のリスクシュミレーションを行い、事業の可否が決定される場合が多い。事業収益が見込めてもリーシングの可能性がなくては事業は進まない。単純な銀行融資は減少する傾向の中、プロジェクトファイナンス、不動産証券化など新しい資金調達方法も視野に入れたリーシングの検討が必要になってきている。
 以上の状況をみると建築産業は今までのような受動的な受注産業では成り立たないことを感じる。もはや建築のハード部分の整理だけを営業として行い、あとは金融、不動産の専門家に事業フレームの整理を任せていれば業務獲得ができる時代ではない。依頼者が建築プロジェクトを志向していても、より投資価値の高いものが現れれば投資対象は他岸へ移ってしまう。また受注待機の姿勢では気がつくと依頼者にとってのパートナーを他分野の専門家に占められることになる。

 PMrのミッションはあくまで建築におけるPMrである。もちろん依頼者のパートナーとしてライフサポート的な助言を与えられたとしても最終的には建築に関しての実業として成果を出さなくてはならない。
 たとえば依頼者が投資目的として建物建設を考えているとする。立地や建物用途のイメージが定まらずにいるとすれば、資金回収期間や初期投資費用のイメージから施設用途の提案を行い、その施設にふさわしい土地を探すことも考えられる。施設運営に適したオペレーション事業者の紹介、リーシングの検討、なども考えられる。
 また所有する土地の将来の相続を含めた有効活用を考えている依頼者がいるとする。依頼者の土地に対する考え方、相続関係者との関わり方、自己資金の有無などを良く聞いたうえで、土地の利用方法、事業主体の選定(例えば、自己建設、等価交換、など)、建物用途の決定(例えば、個人住宅、2世代、3世代、分譲マンション、賃貸アパート、など)の提案が考えられる。
 このように川上での段階であれば、多くの可能性がある。依頼者の発意の段階から一緒に建築プロジェクトの企画立案に関わる。建築プロジェクト遂行に向けて最大限の知恵を絞り、コラボレーションを行う他分野の専門家の中でもリーダーシップをとる。このような川上での積極的な行動がこれからのPMrには必要なのではないか。

 ここまで建築物の投資価値の側面から言及したが、資産の有効活用は、環境経済学の側面から見ると、地球の限られた資源をいかに有効活用できるかという考え方と一致する。それは同時に維持管理の経済的合理性と結びつく。
 LCCの評価検討を行い、設計に反映させ、竣工後の管理運営の中で適切な設備更新、建物メンテナンスを行い、建物資産価値を保全する。このような川下業務に対してもPMrは意識をする必要がある。賃貸ビル計画において、テナント負担のランニングコストを無視して初期投資額だけの判断で設計スペックをまとめるのでなく、トータルな視野に立って建物について考えることが必要ではないか。

 PMrの必要性は公共、民間事業問わず存在する。公共事業の場合、今までは公共=発注者サイドのインハウスの建築技術者がその役割を担ってきたと思われるが、今後PFIの導入などによりその役割分担も変わり、同時に市民債発行による公共施設の建設なども考えられる。市民によるワークショップの調整、建設プロセス、工事内容の市民への情報開示、あるいは企画立案、資金調達システムの開発などもPMrの重要な仕事になると考える。

 以上のように今後PMrを自立したプロフェッションとする上では、PMrとしての素養と、職域開拓へのフロンティア精神が必要と考える。
同時に内需基幹産業としての建設業への公共工事の発注が減少し、一方でグローバル化により開かれた建築市場を望む声が大きくなりつつある今日、PMrの存在を社会的に認知させていく上には、適正な建築コストの提示を建築界が積極的におこなっていく必要もある。